大谷の腕を治療し、安堵したのもつかの間・・・
「ついにKをしとめたぞ!!」
「ぐおっ」
さすがのKAZUYAも銃によるダメージで即応できません。
「KAZUYA!!」
「やはり大谷を張っていたのは正解だったぜ!」
「今こそとどめを!!」
橋爪の手下の二人組の漢達は歓喜に湧きますw
KAZUYAも絶体絶命のピンチです。
しかし、そこには大谷がいるのを手下どもは忘れているのでした・・・
とどめを刺そうとして銃を構える黒服の腕をガシッと右腕で掴み、握りつぶす勢いで戦意を喪失させます。
「よくもKAZUYAを!!」
「うぉああああ・・・・」
「てめぇもとったろうかい!!」
角材で殴りかかるもう一人を睨みつけ、治ったばかりの右腕で角材を受け止めへし折ります。
この時点で鍛え方が半端じゃないのが分かります。
通常のリハビリの領域を軽く超えるトレーニングをしていたことが伺い知れます。
「このつまんねえ殺し屋どもが!!」
「KAZUYAをねらうやつぁこのオレが・・・・」
と言いながら、殴りかかって来た漢の腕の関節を手際よくキメて、背中側に回し・・・
「ボッキン」
という鈍い音が鳴るまで引き上げますw
おそらく脱臼させてしまったのでしょう。
銃を持った奴らなので、この程度の反撃をしても充分正当防衛になります。
勝てないと悟った漢達は即刻逃げ出します。
「だ・・・・だめだ!!」
「ひとまず引き上げだ・・・・」
やろうと思えば銃を数発撃って仕留める事は可能だったとは思えますが、そこは漫画の演出という事でスルーしましょう。
「手が・・・・握力がもどっている・・・・!?」
ヒットマン達が逃げていった事で冷静になり、無意識に手術で接合した右腕を普通に使えていた事に気づく大谷。
「KAZUYA!!」
「大丈夫か!?」
狙撃されたKAZUYAは倒れたままだが、致命傷は負っていません。
本気を出せば一発喰らった程度ならヒットマンの首をへし折るくらいの余力は充分にあったような気もしますが・・・
大谷に任せて自分の状況確認に努めたように思えます。
「その腕・・・・完治したようだな」
「ああ!お前のおかげだ!!」
「あれだけの格闘ができてバレーができねえわきゃねえよ!」
大谷は右腕にグッと力を込めて完治した右腕の力を改めて実感します。
「そんなことよりケガは!?」
「スマン・・・・体をおこしてくれ」
狙撃のダメージで体を思うように動かせない状態のKAZUYAだが、
「弾丸は筋肉層で止まってはいるが・・・・」
「やっかいな場所に撃ち込まれた」
「脇の下だ・・・・神経が集中している所だけにやっかいだ」
とダメージの自己分析は正確にこなします。
「早く医者に診せた方が・・・・」
と大谷は常識的な事を言いますが、そこはK一族なので常識は通用しませんw
「少々手荒な治療だが・・・・まあ見ていろ」
と言いながら撃たれた方の左腕を真っ直ぐ伸ばし、「むん・・・・!!」と言う掛け声で全身の筋肉に力を入れます。
そしてグバンと腕を体の前面に持ってきます。
これだけ見れば当然何をやっているかは分かりませんが・・・・
アームカバーに仕込んであるメスを取り出し左胸を数センチ切開するとなぜか弾丸が出てくるのでした。
「え!?なんで胸から銃弾が!?撃たれたのは腕なのに・・・・」
大谷も普通の一般人なので、驚きを隠せません。
「脇の下の上腕神経叢にメスを入れるのはさけたかったんでな」
KAZUYAはさもその処置が当然の事のように切開創を縫い合わせながら端的に説明します。
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腋窩(脇の下)には血管にそって伸びている複雑な神経の塊(神経叢)があるため麻酔なしでメスを入れるのは危険である
ボディビルダーが各部の筋肉を動かすようにKAZUYAは各部の筋肉を操作し比較的安全な大胸筋に弾丸を移動させたのである
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という解説も入るが、それを普通にやってのけるKAZUYAは超人である。
「はあ〜〜おめえってやつはどこまですげえ男なんだ」
と大谷も半ば呆れながらも感心しています。
「これくらいできなくてはオレの家系では一人前として認められなかった・・・・」
とつぶやくKAZUYAの表情にはK一族の闇の部分も垣間見えます。
「オレ ソウルへいくよ!」
「かならず見にきてくれよな」
「ああいくさ」
「必ずな・・・・」
この短い会話だけでも信頼しあってる事が分かります。
時は流れて・・・・スポーツ新聞には大谷の動向が掲載されます。
「大谷全日本復帰!」
「かつてのエースに温情か!?」
「球拾いが精一杯?」
「一応復帰だが・・・・」
「右腕全快したか?」
という見出しからも世間からは現役復帰が絶望的に見られている事が分かります。
右腕切断した選手が復帰できるとは思わないのも無理はないので、極めて常識的な反応です。
「役立たずじゃしようがないんだぞ!!」
「選考委員は何を考えているんだ!?」
「大谷がもどってくるらしいが・・・・」
「まあ引退前の最後の花道って感じじゃないスかねえ」
と選手たちも本気で期待はしていない様子。
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ソウル五輪開幕!!
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「日本敗色濃厚です!!」
「第三セット6−13! ソ連に防戦一方に追いつめられました!」
男子バレーボール決勝戦で実況が絶望的な状況を伝えますが、決勝戦まで大谷無しでも行けるのを見ると、実力が決して低い訳ではないのが分かります。
「あっと・・・・ここでメンバーチェンジですが・・・・」
「お・・・・大谷です!! あの大谷が決勝のコートに立ちます!!」
「半年前に右腕切断という大ケガをした大谷定久です」
メンバーチェンジでついに大谷の登場ですが、選手たちも大谷の右腕を完全に信じる事はできない様子。
(大谷・・・・ オレ達はこの大舞台でお前の右腕を信用していいのか・・?)
「一応決勝戦まで温存という形にはなりましたが・・・・」
「かつてのエースへの最後のはなむけというところでしょうか!?」
実況も大谷の完治は半信半疑だが・・・
(たのむぞオレの右腕・・・・通用してくれよ!!)
大谷も右腕に念じて力を込めます。
「さあソビエトのサーブ!!」
「とにかく一応上げてみるか・・・・」
チームメイトも期待はしていないが、一度くらいは花を持たせる感じで大谷にパスを回します。
「大谷が跳んだ・・・・」
飛んだと同時にスパイクを打ちソビエト勢は全く反応できずにボールを見逃します。
「お 大谷 お前・・・・」
「いける・・・・いけるぞ!!」
「あ・・・・こ これはいったい・・・・」
実況も唖然として言葉が出ません。
「信じられません・・・・!」
「あの大谷が決めました・・・・!」
「半年前 バレー選手の命の右腕を切断した男が決勝のコートでスパイクを決めましたあ!!」
「とるぜ!金メダル!!」
「オ・・オウ!!」
実況もチームメイトもこのスパイクで大谷の全快を認識し、勢いが付きます。
「さあがぜん勢いがついてきた日本!!」
「また決まったあ!! また大谷です!!」
次々と決めてソビエト勢は全く反撃できません。
「なんて迫力・・・・」「まるで見えない・・・・」
「大谷 ソ連を圧倒しています!!」
「大谷が・・・・」「大谷が試合の流れを変えましたァ!!」
と大谷の活躍だけに目が行くかと思うが、期待を裏切らないのがKですw
橋爪達もKAZUYAを仕留める為に会場に乗り込んでいるのです。
「Kはかならずこの会場のどこかにいる・・・・」
「大谷が活躍するこの会場が最後のてがかりだ・・・・」
「これをのがしたらもうチャンスはない」
「Kをさがせ!!」
相変わらず殺る気満々の橋爪!!
「お聞き下さい! 日本の大応援団のこの大谷コールを・・・・!!」
「場内騒然!大谷コールがこだまします!!」
「第五セット 14−6(日本−ソ連)! 日本大逆転!!」
「いよいよマッチポイント! 日本 金メダルへ王手だぁ!!」
沸き立つ会場とは裏腹に、KAZUYAは不穏な気配を感じ取ります。
見回すと観客に混じって橋爪の刺客どもがあちこちに配置されています。
「拾ったー!! 動きも見違えるようです!!」
「チャンスボールだ!!日本!!」
「よし 上げろー!!」
「いけぇー 大谷ィ!!」
大谷は上げられたボールにスパイクを打つべく跳び出します。
「見てろよKAZUYA」
KAZUYAはその活躍を見ながら、静かに去る事を決意します。
(大谷・・・・見事だ立派だったぞ)
「上がったーこれが祝砲となるか!?」
(だが・・オレはお前に祝福の握手すらしてやれぬ ここにもやつらの手がのびてきたらしい・・・・)
(さらばだ 大谷・・・・)
KAZUYAは勝利の瞬間を見ることも無く、大谷に背を向け去っていくのでした。
(つらかったリハビリにも 周囲の冷たい視線に耐えてきたのも・・・・)
(すべてはこのために・・・・)
(この一瞬のために・・・・)
(かけてきたんだ!!)
「決まったーーー!!」
「日本 逆転優勝」
ビシッと大谷のスパイクが決まり、日本の逆転優勝!!
(よかった・・・・今まであきらめないでよかった・・・・)
(よく治ってくれた・・・・オレの右腕)
(KAZUYAお前のおかげだ・・・・)
右腕への労りとKAZUYAへの感謝を思いながら観客席を見るが・・・
「KAZUYA!?」
「いない・・・・」
既に姿を消しているのであった。
「いやあ大谷くん!よくやってくれた!!」
「さすがだ大谷くん!!」
「我々は君を信じていたんだ!!」
「腕の一本や二本くらいでは立派に立ち直ってくれると思っていたんだよ!!」
「君は日本の誇りだ!」
「国民栄誉賞まちがいなしだよ!!」
手のひらを返して寄ってくるお偉方だが・・・そんな言葉に耳を貸すわけもなく
「オレは国のためやあんたらのメンツを立てるためにやったんじゃない」
「自分のためにやったんだ!!」
と言い放つ大谷。
(なあそうだろうKAZUYA・・)
「さあいよいよ表彰式です!!」
「まさに奇跡といっていいでしょう!!」
「ここ数年の男子バレーの低迷をふきとばしたのは なんと片腕を切断した選手でした!」
「おめでとう大谷定久選手!!」
その実況を聞くことも無く、既に飛行機に乗り込んでいたKAZUYAであった。
(KAZUYAお前がくれた金メダルだぜ・・・・)
一番の功労者がKAZUYAだが、それを誰にも公表できない事を己の胸の内にとどめる大谷であった。
これで第1巻 完ですが、今後のKAZUYAのスタンスを読者に認識させる良いヒキになっているのは流石です。